島根県立石見海浜公園にある水族館
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シロイルカ

アンナ出産・育児の記録 その③

2009.11.17 - シロイルカ

 いよいよ明日から、シロイルカプールの観覧が再開、シロイルカの親子を皆様にリアルタイムでご覧いただけることとなります。

 その前に、この記録を綴り終えなければ…と思いながらも、書いては消しを繰り返していて、何度も書き直し、考え直し、とうとう前日になってしまいました。

 でも、きちんと書き終えなくては、明日へ踏み出せませんからね。

 前回、アンナの初めての授乳がようやく4日目にうまくいき、順調に飲み始めたところまでお話しました。(読んでいない方は、まずはこちらからどうぞ。)

  その続きです。

 

 アンナ仔が生まれて、4日目。

 奇跡の初授乳を確認したその日、24時間の合計授乳時間は4分弱までいきました。

 たった4分とは言え、今までは全く見られなかった授乳が30回以上あったのと、アンナ仔の遊泳状態も悪くないように見えたのとで、観察するスタッフにも笑顔が見られるようにもなりました。

 そして、5日目。24時間の合計授乳時間は11分を超えました。回数も100回に迫り、先に生まれ育っていたアリ仔のときと比べても、伸び幅としては負けていません。

 このまま、翌日には20分の壁を越えて順調に授乳してくれるものと、そう思い、みんなでそう願っていました。

 一つ、心配なことがあるとすれば、お母さんのアンナが、出産直後には餌をよく食べていたのに、急に欲しがらなくなったことでした。

 お母さんの健康や精神の安定が損なわれると、育児にも支障をきたすことがあるので、飼育スタッフは、お母さんアンナのケアにも必死で取り組みました。

 6日目。願っていた通りには進みませんでした。

 朝方少しミルクを飲んだきり、ぱったりと授乳行動が見られなくなりました。授乳時間も2分弱にまで減ってしまいました。

 授乳が見られなくなってしばらくすると、アンナ仔の遊泳にも力強さがなくなり、水流に負けるような様子も観察されました。

 お母さんのアンナも、やはり調子が悪いのか、遊泳も不安定で、授乳へと導けないようです。

 午後と夕方には、アンナ仔が産まれて以来2回目・3回目となる取り上げ処置を決行、人工乳や経口補液剤をチューブで流し込み、採血や体長・体重測定も行いました。

 体長は155cm、体重は59kg。血液検査では、軽度の脱水と栄養不足の所見が出ました。

 7日目から8日目。処置の効果が現れたのか、授乳行動が少し見られました。それでも、授乳時間は3分まで伸びることはなく、生きていくのに十分な水分や栄養を摂取できるほどではありません。

 そんな状況ですから、日に二度の取り上げ処置も引き続き行いました。取り上げ中、お母さんのアンナが、仔を心配して寄ってくる姿に目頭が熱くなり、何とかアンナ仔を回復させたいと強く思いました。

 その思いとは裏腹に、徐々にアンナ仔の泳ぎはゆっくりとなり、壁やアクリルガラスを吸うような仕草が以前より増えてきてしまいました。アンナの行動や食欲も不安定なままです。

 9日目。アンナ仔の尾びれから力がなくなってきたように感じました。壁を吸うことすらなくなってしまいました。

 ぼーっと泳ぐアンナ仔にアンナが心配そうにずっとついて泳ぎ、同居しているアリ仔はゆらゆらと揺れるアンナ仔の尾びれにかみついたりして、まるで一緒に遊ぼうよと言っているようでした。

 そして、夕方、このまま日に2回の処置では、回復は望めず、また、この飼育状況では日に2回以上の処置をするのは到底無理と判断しました。

 アンナからアンナ仔を取り上げてしまうのは、本当につらいことでしたし、今から人工哺育に切り替えてもうまくいく可能性は低いことも分かっていました。

 でも、このまま、命の火が小さく小さくなっていって、いずれ消えていくのを、ただ見ているだけで終わらせるわけにはいかないと感じていました。

 人工哺育でしのいで、いつかアンナのところへ返せるときがくる可能性はゼロではない……ならば、やろうとなりました。

 そのためのちょうどいいプールもありませんし、イルカの人工哺育もスタッフみんな初めてです。みんな必死に対応しました。

 仔を取り上げられたアンナが仔を探す姿も心につきささります。

 アーリャ親仔のことも、まだ安定してくる時期まできておらず、おろそかにできません。

 24時間観察に加え、24時間つきっきりのアンナ仔の遊泳補助、3時間おきのミルク作成と強制哺乳。。。

 その晩は、一睡もできないスタッフもいました。

 夜が明け、10日目。3時間おきにミルクをやっても、吐かれることが増え、ミルクの量や成分を見直して試行錯誤の一日でした。

 次のミルクはどうしようかと、朦朧とする頭で考えながら作り始めた9月1日19時半過ぎ、アンナ仔の容体急変の知らせが入りました。

 わたしがアンナ仔のもとへ駆けつけたとき、すでに呼吸は停止していました。

 お願い!戻ってきて!と緊急薬の投与を急ぎましたが、呼吸は再開することなく、心拍も徐々に小さくゆっくりになり、そして、止まりました。

 アンナ仔の短い一生が終わりました。

 

 あれから、ずっと考えています。

 いつ、どうすればよかったのか。と。

 答えはいくつもあるようで、どれも正しいとは確かめられず、いつまでも、いつまでも考えています。

 

 ただ一つ、アンナ仔が産まれたということを、死んだということを決して無駄にはしないようにしていきたいです。一つの命も無駄にできるはずがありません。

 わたしたちは、アンナ仔に接して得たすべてのことを忘れません。

 アンナ仔、ありがとうね~!

 

 これで、アンナ仔の記録と、シロイルカ出産準備のカテゴリーも終わりにしたいと思います。

 長々とおつきあいくださった皆様、ありがとうございます。

  

 さて、シロイルカ出産準備のカテゴリーが終わってしまうと思ったら、少し淋しくなってしまったvetですが、またいつか、アクアスのシロイルカが妊娠できるときがきたら、またその取り組みをお伝えできるので、そのときまで、シロイルカたちの体調管理・施設の改善・飼育スタッフと獣医の技術向上に努めていこうと思います。

 今までたくさんの応援をありがとうございました。

 また、いつかこんな素敵な親仔の姿が見られますように。

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 明日から、アーリャ親仔と元気になったアンナの展示再開です。

 アンナ仔の分まで力強く生きている姿をどうぞご覧下さい。